コラム

なぜ関家具が選ばれたのか:Lキャタルトン買収に見るラグジュアリーブランドの次の成長軸

本ブログは、Lキャタルトン(L Catterton)による関家具の買収(出資)について、ラグジュアリーブランド産業の潮流と投資実務の双方から要点を整理します。LキャタルトンはLVMHグループと関係の深い消費財特化ファンドであり、日本の有力プレイヤーである関家具の強みを取り込み、海外を含む成長余地を狙います。キーワードは「買収」「オムニチャネル」「空間価値」になります。

Lキャタルトンとは:世界最大級のコンシューマー業界特化型PEファンド

同社はラグジュアリーを含む消費者領域で、ブランド構築・再生に強みを持つ投資ファンドです。LVMHグループ由来のブランド運用知見やネットワークを活かし、製品だけでなく顧客体験(CX)と収益モデルを同時に磨き上げるアプローチが特長です。LVMHグループが出資しているものの、あくまでファンドであるためファンド過去の投資対象の企業を見ると、LVMHグループで直接買収した企業とはだいぶ毛色が異なり幅広い分野に及んでいる事が分かります。ファッション関係では国産ジーンズ発祥の地とされる岡山県倉敷市児島に本社を持つアパレル製造業KAPITALなども挙げられます。

関家具の何が評価されたのか:三つのコア資産

1.デザイン×サプライの一貫性とスケール

関家具は企画・デザイン、調達・品質管理、卸・直営・ECまでを一貫して運用できる体制を持ちます。国内外のサプライヤーと長年築いてきたネットワークは、コストの最適化と品質の安定化を両立させるスケールメリットの源泉です。

2.オムニチャネルの厚み(B2C+B2B)

全国卸に加え、直営店舗・EC・法人(オフィス/ホテル/商業空間)を横断する多層の販路を保有。商品力の高さをそのまま販路へとつなげる事が出来るため、非常に大きな強みとなっています。

3.クラフトマンシップとアフター品質

家具は購入後の使用期間が長く、修理・張替え・部材供給などのライフサイクル対応が体験価値を左右します。関家具はアフターケア対応の信頼性が高く、これはラグジュアリーブランドが重視する「長期の顧客価値」と親和性が高い領域です。ただ、この家具に対するアフターケアのクオリティの高さは、関家具のみの特色ではなく日本の老舗高級家具メーカーなどでは見られる特色のため、この点のみで決め手になった訳ではないと思われます。

なぜ今「日本の家具」なのか:ラグジュアリーブランドの視点から

ラグジュアリーブランドの収益源は、プロダクト単体に留まりません。旗艦店の什器・内装、ホテル・レストランの空間、ポップアップや展示会など、空間全体の体験設計がブランド価値を押し上げます。日本の家具は職人の技術力の高さ・耐久性で世界的評価が高く、ここ最近のラグジュアリーのトレンドであった「クワイエットラグジュアリー」も体現しやすいと言えます。また、日本発のラグジュアリーブランドという視点ではまだまだ伸びしろの価値も大きく、投資対象としても魅力的に映ります。

投資家視点の価値向上の施策について

ここでは、買収後に考えられる施策について挙げてみました。もちろん、具体的にどのような施策を打つかはLキャタルトンでは開示していないため、あくまで筆者の私見である点につきましてはご了承下さい。

MD/価格戦略の再設計

需要データに基づくSKU再編、各価格帯の明確化、粗利と回転の同時最適を図る。

オムニチャネルのKPI統合

卸・直営・EC・B2Bを横断するダッシュボードを構築し、LTV/在庫/キャッシュコンバージョンを可視化。販路別に適切なプロモーション戦略の策定

ブランド資産と空間ビジネス

旗艦店什器、ホスピタリティ案件、ラグジュアリーブランドのポップアップ什器など、空間価値×家具のクロスセル領域を開拓。

シナジーの具体像:ラグジュアリーブランドとの接点

  • 店舗什器/内装の高精度化:ブランドの素材規格・意匠統一を前提に、量産と個別対応を両立。
  • ホスピタリティ領域の拡張:ホテル・レストラン・スパ等での納入強化。空間の一体設計でアップセルを実現。

リスクと対応:過度な在庫対策

家具は物量・保管スペース・職人手配に制約が生じやすい領域です。受注設計の標準化(モジュール化)、補材共通化、需給変動に応じた外部アライアンスの確保でリスクを緩和します。

まとめ:なぜ関家具が選ばれたのか

要点は以下の三つです。
一貫した設計〜供給能力とスケールによる改善余地の大きさ。
オムニチャネル基盤が投資後のさらなる成長に寄与
③ ラグジュアリーが重視する空間価値・アフター品質への高い親和性。
日本発の信頼性とクラフトマンシップを取り込み、海外での展開力を高めるうえで、関家具は合理的な相手先の一つだったと言えます。