【2025年9月期速報】ラグジュアリー大手3社の決算の解説
今回は、9月末基準で公表されたIR資料をもとに、ラグジュアリー大手3社 ― LVMH、リシュモン(Richemont)、ケリング(Kering)― の業績動向を比較して解説します。
売上減少率より利益の減少率が大きく動く理由
今回特徴的だったのが、リシュモンのように「売上高は+5%程度なのに、営業利益は+20%超」と増加率の影響が営業利益の方が大きい点です。ここには、
- 売上に比例して増減する「変動費」
- 売上とあまり連動しない「固定費」(家賃・人件費など)
というコスト構造が影響しています。
通常、売上が落ちると営業利益はそれ以上に落ちるのが定石です。一方で、大型店舗の閉鎖や本社コスト削減、リストラなどによって固定費を削減できれば、売上の減少よりも利益の減少が小さくなる場合もあります。
LVMH:ファッション&レザーのマイナスとAPACの底打ち感
売上のオーガニック成長率は-2%
LVMH全体の売上増加率は、為替影響を除いたオーガニックベースで-2%でした。アナリストの予想よりも減少率が低くポジティブな要素として受け取られていました。
主力「ファッション&レザー」が-6%
セグメント別では、ルイ・ヴィトンを含む主力の「ファッション&レザー」が-6%と最も大きなマイナスとなりました。最もウェイトの大きいこのセグメントが伸び悩むと、グループ全体の成長にも直接影響が及びます。
日本は-14%、APACは+2%
地域別では、日本が-14%と最も大きな減少。昨年はインバウンド需要が非常に強く、記録的な売上高と比較しているため、一定程度の減少は想定の範囲内と考えられます。一方、3Qのアジアパシフィックは+2%となり、中国を中心とした需要が底を打ちつつあるのか、慎重に見極めが必要な局面です。
Richemont:宝石メゾンが牽引する「一人勝ち」
売上+10%、営業利益は2桁増加
9月末時点の比較では、3社の中で唯一、売上が+10%と2桁増加となったのがリシュモンです。営業利益も大きく伸長しており、3社の中で最も好調さが際立つ決算でした。
ジュエリー vs ウォッチの明暗
- ジュエリーメゾン(カルティエ、ヴァンクリーフ&アーペル):+14%
- ウォッチブランド:-2%
宝石メゾンが引き続き全体を牽引する一方、腕時計はこれまで2桁減だったところから、ほぼフラットまで回復してきており、次四半期でプラスに転じる可能性も見えてきました。
リテールネットワーク情報から読むブランドの勢い
リシュモンはブランド別の売上を開示していませんが、リテールネットワーク(店舗数)の資料から、いくつか興味深い示唆が得られます。
- カルティエ:店舗数はほぼ横ばい。すでに主要都市への展開が一巡している段階と考えられます。
- ヴァンクリーフ&アーペル:半年で8店舗増加。宝石メゾンは基本的には直営店になるため、それが純増で8店となるとブランドの勢いが数字にも表れていると言えます。
- パネライ:半年で7店舗減少。必ずしも不振とは限らず、フランチャイズから直営へのチャネルシフトなど、ポートフォリオ最適化の可能性も考えられます。
地域別ではAPACが+5%、日本は他の2社が2桁減の中で「1桁減」にとどまり、日本でもリシュモングループの強さが確認できる決算内容となっていました。
Kering:グッチの調整と化粧品戦略の転換点
売上-12%、グッチは-22%
ケリング全体の売上は-12%。ブランド別では、グッチが-22%と20%超の減少が続いています。一方でボッテガ・ヴェネタは+2%と堅調で、ポートフォリオ内でも明暗が分かれる形となりました。
APAC・日本ともに2桁減
地域別では、APACが年間比較で-28%、日本は-27%と、ほぼ同水準の減少幅となっています。ラグジュアリーマーケット全体のなかでも、ケリングがより厳しい局面に立っていることがうかがえます。
ロレアルとの「50年パートナーシップ」が意味するもの
同時期に発表されたのが、ロレアルとの50年に及ぶ超長期のパートナーシップ契約です。これにより、ケリングは化粧品の内製化を目指して立ち上げた「Kering Beauté」の役割を事実上終了させることになります。
ここから見えてくるポイントは2つです。
- 化粧品ビジネスの内製化の難しさ
研究開発・製造に多額の投資が必要なうえ、スケールメリットが効きにくい状況では、ラグジュアリーブランド単独での内製化は収益性の面でハードルが高いと言えます。 - 化粧品製造からライセンスモデルへの回帰
ロレアルとの大型ライセンス契約に舵を切ったことは、ケリングが「化粧品を自社製造する道をほぼ諦めた」という戦略的メッセージとも受け取れます。ブランド管理と製造・R&Dを切り分ける、典型的なラグジュアリー×ビューティーの分業モデルへの回帰です。
