コラム

Keringのリストラクチャリング戦略とライセンスビジネス― Gucci再建と資本効率経営を読み解く

ラグジュアリー業界では近年、ブランドポートフォリオの見直しや資本効率の改善を目的としたリストラクチャリングが進んでいます。その象徴的な事例が、フランスのラグジュアリーグループ Kering の戦略転換です。

主力ブランド Gucci の成長鈍化を背景に、同社は事業ポートフォリオの再編を進めています。その一環として注目されているのが、美容事業を L’Oréal と提携し、ライセンスビジネスへ転換した動きになります。本稿では、Keringのリストラクチャリングをラグジュアリー業界の構造、ブランド価値経営、そして会計・財務の視点から考察します。


第1章 Keringリストラクチャリングの背景

Gucci依存のビジネスモデル

Keringの収益構造は長らくGucciに依存してきました。ブランドの成功は高い利益率をもたらしましたが、成長鈍化はグループ全体の業績に直接影響する形になります。

中国市場の需要減速やラグジュアリー消費の変化により、Gucciの売上は伸び悩み、Keringは経営戦略の見直しを迫られています。これが今回のリストラクチャリングの背景となります。特に、アレッサンドロ・ミケーレの退任やコロナ禍の影響も大きかったと言えます。


第2章 ライセンスビジネスが選ばれた理由

ラグジュアリー業界のビジネスモデル

香水や化粧品などのビューティー分野は、ラグジュアリーブランドにとって重要な収益源になります。しかし、この市場は研究開発やグローバル流通など、専門的なノウハウが必要になります。

そのため多くのブランドは、ビューティー事業を自社で運営するのではなく、専門企業にライセンス供与するモデルを採用していますKeringがL’Oréalと提携した背景には、同社のグローバルな製造・販売能力を活用しながら、ブランド価値を効率的に収益化する狙いが見受けられます。以下記事でも類似内容を扱っているので、興味のあるかたは、併せてご覧ください。
KERINGが化粧品内製化から撤退 – 今後のトレンドにも大きな影響が!? – 田村宏明公認会計士事務所


第3章 ラグジュアリー業界における意味

ブランド価値経営

ラグジュアリー企業の最大の資産は当然ながらブランドになります。これは LVMH が採用するブランドポートフォリオ戦略にも共通します。

ブランドオーナー企業は、ブランドの世界観と希少性を管理しながら、香水やアイウェアなどのカテゴリーをライセンスによって拡張していく手法が良く採用されています。もちろん、LVMHなど一部大手ではアイウェア含めて内製化を進めている企業もあります。


第4章 投資・財務の視点

資本効率経営

ライセンスビジネスの特徴は、設備投資を伴わずにロイヤルティ収益を確保できる点にあります。これは投下資本を抑えながら利益を生むため、ROICの改善につながります。つまり、撤退の判断をする際の判断すべき項目がライセンス契約の違約金のみとなり、身軽に動く事ができるというメリットもあります。

ラグジュアリー企業が近年重視している資本効率経営の観点からも、今回のKeringの戦略は合理的といえます。

まとめ

Keringのリストラクチャリングは、単なる事業売却ではなく、ブランド価値経営と資本効率を両立させる戦略的な選択といえる。ラグジュアリー業界では、ブランドの希少性を維持しながら収益源を拡張するため、ライセンスビジネスが重要な役割を果たしています。


公認会計士としての視点

ラグジュアリー企業の企業価値は、ブランドという無形資産に大きく依存しています。ライセンス契約は、この無形資産をロイヤルティ収益として安定的に収益化する仕組みであり、企業価値の向上に寄与しています。

また、固定資産の観点から鑑みると化粧品の製造工場なども不要になることや、研究開発費も一定の要件を満たす場合は無形固定資産の計上が必要になるものの、こちらも当然不要になりライセンス収入への一本化になります。