ラグジュアリーブランド大手3社へのEU制裁金の報道を受けて:価格戦略と今後の影響
本日ブルームバーグにてラグジュアリーブランド3社に280億円のEU制裁金というニュースが掲載されました。
ニュース内容の詳細については以下のリンク先よりご覧ください。
グッチやロエベなど3社に総額280億円のEU制裁金-価格慣行で競争阻害 – Bloomberg
本ブログでは、この記事と今後のラグジュアリーブランド業界に与える影響という観点で解説していきます。
まず、上記のニュースを見るとグッチ、ロエベ、クロエの3ブランドであることが分かります。そして、この3ブランドがそれぞれラグジュアリーコングロマリット大手のケリング、LVMH、リシュモン傘下のブランドになるため大手3社全て制裁金が課されたことになります。
内容としては、『取引先の小売業者による独自の価格設定を制限していたことが判明』したことによるものとあります。ここで恐らく疑問に思われるのが、以下の3点と思いますがあまりこの視点で解説している記事がなかったので、さらに深掘りしてみます。
- リシュモン最大手のカルティエやLVMH筆頭のルイ・ヴィトン、さらにはエルメスがなぜ含まれていないのか?
- 制裁金を課された3社の中ではグッチが他の2ブランドの約6倍と金額が多額であること
- 今後のラグジュアリーブランド業界への影響は?
1.については、各ブランドの販売チャネルを理解していないとなかなか分からないかもしれません。また、あくまで私個人の見解になる点ご容赦下さい。カルティエやルイ・ヴィトン、エルメスは売上の大部分が路面店による販売であり、自ら顧客に対して販売している形になります。このため取引先の小売業者がそもそもあまりなく、よって価格設定の制限もほぼしていないと予想されます。特にエルメスは直営比率が極めて高いため、今回の制裁金の対象になっていないことにも納得できます。そして、今回の制裁対象の3社は宝飾ではなくラグジュアリーファッションをメインにしている点でも共通点があります。
2.については、ブランド規模によるものと思われます。ロエベ・クロエはブランド個別の売上をアニュアルレポートで開示していないため、売上規模の推定が難しいですが、ケリング傘下の最大ブランドであるグッチよりは売上規模がかなり小さいと思われます。そのため、価格制限を実施した場合のグッチのインパクトも大きくなり、その結果、制裁金も大きくなったと考えられます。
3については、正直かなり影響は大きいと思われます。ラグジュアリーブランドビジネスはそのビジネスの特徴として価格決定権が企業側にあり、極端な値引きはなるべく避けてブランドのイメージを毀損させない戦略を長い間採用していました。例えば、2018年にはバーバリーが42億円相当の売れ残りを焼却処分したというのがニュースになり大きな非難を浴びましたが、これも理由の一つとしては安く売ってブランドイメージ低下を防ぐためでした。
英バーバリー、42億円相当の売れ残り商品を焼却処分 – BBCニュース
このようなラグジュアリーブランドの基本戦略を揺るがすような今回の制裁金報道ですが、上記でも述べたとおりそもそもは『取引先の小売業者による独自の価格設定を制限していたことが判明』したことによるもので、価格自体が高いからNGとなっている訳ではありません。つまり、路面店がメインチャネルのエルメスやカルティエなどにはあまり影響がない一方、EU地域で小売業者に多く販売しているラグジュアリーブランドは今後戦略の再考が求められるかもしれません。