コラム

リシュモンがボーム&メルシエをダミアーニへ売却:リシュモン売却の狙いと“高級時計ポートフォリオ再編”

結論:今回の売却事例で押さえるべき“3つのポイント”

ポイント1:何が起きたか

リシュモンは「ボーム&メルシエ」をダミアーニ・グループへ売却(ダミアーニが完全取得)する契約を締結。条件は非公開で、完了は2026年夏ごろの見込み。クロージング後は少なくとも12カ月、リシュモンが移行の運営支援を行います。リシュモンからのオフィシャルアナウンスのリンク先は以下になります。

Richemont and the Damiani Group sign agreement for the Damiani Group to acquire Baume & Mercier | Media

ポイント2:リシュモン側の狙い(“選択”と“集中”)

リシュモンは多数の高級時計のメゾンを保有していますが、その中でも高級価格帯のブランドに集中しつつ、チャネルとして卸を中心にしているブランドを移す—これが最大のポイントです。グループとしての成長ストーリーも、より明確になります。

ポイント3:ダミアーニ側の狙い(“流通×ハードラグジュアリー”)

宝飾+流通を持つダミアーニは、時計ブランドを加えることでこの販路を活かして拡大を図ることが出来ます。また、ブランドの価格帯としてもヴァシュロンなどと比較すると手ごろな金額であり、この点もダミアーニのブランドイメージとも一致しています。

ニュース概要:リシュモン公式発表の要点

取引の要旨

本件M&Aで公式の核は「ダミアーニが取得」「金銭条件は非開示」「完了後も一定期間、リシュモンが運営支援」の3点です。

“なぜダミアーニが適任”と説明している理由

リシュモンは、①イタリアでの強い存在感、②マルチブランド卸中心、③“手に届きやすい”価格帯—この特性がダミアーニ傘下で最も活きると説明しています。

今後の運営方針(ダミアーニ側)

ダミアーニは既存の流通網を軸に、認知とリーチを高める方針と考えられます。

ボーム&メルシエとは:リシュモン内での位置づけ(“価格帯と流通”)

アクセシブル・ラグジュアリー時計としての立ち位置

ボーム&メルシエは、比較的手に届く価格帯で裾野を広げる役割を担っていました。高級メゾン(ヴァシュロンやランゲ)とは顧客層もストラテジーも明らかに異なります。日本市場で考えても、ボーム&メルシエは路面店を保有しておらず100%卸売りとなっていました。

卸(ホールセール)比率が高いことの意味

卸中心では、在庫回転・値引き統制・配荷コントロールが生命線。会計面では販促費の設計、返品・値引きの見積り、在庫評価(滞留・陳腐化)の管理が利益率を左右します。またSell-inのみではなくSell-outも管理する必要があり、また各種リベートなどの設定もあり直営とは別の難しさがあります。

なぜリシュモンは売却したのか

仮説:ポートフォリオの“芯”に資源集中(ブランド階層の整理)

高価格帯の時計ブランドと中価格帯の時計ブランドは、投資方針が全く異なりリシュモンはヴァシュロンやランゲなどの高級時計に強みがあるため、ボーム&メルシエを成長させていくのは厳しい状況でした。そのため、選択と集中として中価格帯のボーム&メルシエを売却して、より高価格帯の時計ブランドに注力していく方針であることを改めて明確にしました。

なぜダミアーニは買ったのか&なぜ売却先がスウォッチグループではないのか

ハードラグジュアリーのポートフォリオ拡張

宝飾×時計の“宝飾ラグジュアリー”を厚くし、流通を武器に再成長を描ける点がメリットです。

“流通を持つ買い手”は、時計ブランドの再成長を設計しやすい

卸の再整流化+要所のモノブランド店—再成長のための戦略を明確に設計できます。

なぜスウォッチグループではないのか

理由については公式には表明されていません。ただ考えられる理由としては、スウォッチは自社に幅広い価格帯の時計群をすでに持っているため、ボーム&メルシエと競合するブランドがすでに存在していることが考えられるます。

業界への波及:時計・宝飾の再編は進むのか?

中価格帯・卸中心ブランドの“居場所”が問い直される

今回の売却は「中価格帯×卸中心」が、巨大コングロマリット内で必ずしも最適解ではない可能性を示します。今後は「どのチャネルで、どの価格帯で勝負するか」がブランド価値の論点として再び重要になります。

個人的には、ボーム&メルシエは価格とクオリティのバランスが非常に高く、もっと高く評価されて良いブランドであると約15年前に勤務していた際も感じていました。一方で、なぜ高級時計のメゾンの多いリシュモンでボーム&メルシエやラルフローレンなど中価格帯のブランドを保有していたのか、という点では明らかに浮いており不思議な思いもありました。

今回のダミアーニへの売却で、ボーム&メルシエが再浮上するとともに、良さでもある手ごろな価格で高品質の精神は継続されていく事を願っています。