コラム

Valentinoの買収について – 買収価格の妥当性とその意図は?

つい先日、KERINGによるValentinoの買収についての情報がリリースされました。今回はこの買収について、価格の妥当性とその意図について、簡単に解説していこうと思います。

買収取引の内容

買収報道については、2018年の時にも実は一度出ており、その時の報道を見た事がある方は、そこまで驚きはないかもしれません。

The swoop on Valentino will help. The group has increased revenue about four times to 1.4 billion euros since buyout shop Permira sold it to the Qataris a decade ago. Kering’s stake purchase values the whole brand at 5.7 billion euros, or 16 times its EBITDA of 350 million euros last year. That’s above the 13 times average multiple for major European luxury brands. Yet Valentino’s global prestige and the scarcity of industry targets of such calibre warrants a premium.

上記は、実際のケリングのリリースになりますが、この中で重要なのは2点です。

  1. ケリングヴァレンティノの株式30%17億ユーロで購入
  2. 2028年までに、100%まで買い増すオプションを有している

この1.の価格の妥当性については、のちほど解説します。

前提条件はこのような感じで、次に実際の計算を見ていきます。

買収価格の計算

実際の計算ですが、今回は、M&Aで利用される計算方法の一つ、類似会社比較法(マルチプル法)にて計算していきます。この計算方法は、ざっくり同業他社はEBITDA(利益のようなもの)の何倍で会社の価値を出しているか、という倍率を出し、対象企業のEBITDAにこの倍率を乗じて、企業価値を算定する、という方法です。

ロイター通信によるとEBITDAは3.5億ユーロとの事で、この数値を①に記載して利用していきます。続いて、業界平均の倍率ですが、こちらも同じくロイターに記載があり、約13倍が平均との事で、この倍率を②として計算すると、③は3.5 * 13 = 45.5億€がValentinoの企業価値と算定できます。

今回は30%の取得との事で、上記に30%を乗じると、④13.65億€となりこの金額が理論上の価格となります。
これに対して、ケリングが実際に支払った金額は、⑤17億€なので、3.35億€、約25%割高で購入している、という結論がでます。
計算過程まとめると、下記のとおりです。

買収取引の目的

では、なぜこのような取引をケリングは実行したのでしょうか?理由としては、以下4点が考えられます。

1. シナジー効果

シナジー効果の期待です。ケリングはグッチやサンローランを傘下に置いており、ラグジュアリーファッションの知見有しています。この知見を利用して、より利益を挙げられる、という自信がある、ためです。

もう少し詳しく話すと、先ほど、EBITDAという利益のようなもの、が3.5億ユーロという話をしましたが、これを仮にコスト削減や売上増加により7億ユーロまで引き上げる事が出来れば、半分の8倍になり、たった8年で投資の金額を回収できる、という計算になります。

2. リスクヘッジ

2つ目は、リスクヘッジになります。今回、100%取得ではなく、30%取得に100%買収のオプションを付与したのも、今後数年の状況を見て、最終的な結論を出す、という決定を後ろ倒しにできるため、リスクの回避が出来ます。ただ、この点は、私は少しネガティブに捉えています。なぜなら、100%取得を初回から行わなかったことで、逆に企業価値を向上させる自信がケリングにないように見えたからです。

3. 資金繰り

3つ目は、資金繰りの観点です。グッチの2Qのキャッシュを見ると、30.5億€のため、100%取得をしていたら57億€を一度に支払わないといけない、という事になり手元現金では足りず、外部からの借り入れか株式による資金調達をしないといけない、という事態になります。30%であれば、まだ手元現金で賄える範囲なので、そこまでキャッシュフローの状況は悪くなっていません。

4. ファッション分野の強化

最後の4つ目は、ラグジュアリーファッションへのより一層の注力という点です。ケリングは、傘下にブシュロンという宝飾品ブランドを有しており、今後のケリンググループはどちらの方向に進むのか、という点に注目していたのですが、今回の取引で、よりファッションの方向へ注力していくという方針が明らかになったように思います。