エルメス Mystery at the Grooms’ – エルメスの馬さがしイベントから見るブランド戦略
今回は虎ノ門ヒルズ ステーションタワー45階「TOKYO NODE」で開催されている
Mystery at the Grooms’ ― エルメスの馬さがし
を体験してきたので、内容と併せてブランド戦略について考察してみます。
同じ会場で以前ティファニー展も開催されており、上野の東京国立博物館や東京駅の三菱一号館美術館、六本木ミッドタウンの国立新美術館に続き、TOKYO NODEもラグジュアリーブランドの大型イベントの舞台として定着していくと思われます。
エルメス「馬さがし」イベントの概要
開催情報と参加方法
- イベント名:Mystery at the Grooms’ ― エルメスの馬さがし
- 会場:虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 45階 TOKYO NODE
- 会期:2025年11月14日(金)~ 24日(月)
- 形式:事前予約制・参加無料
- 必須:スマートフォン(馬さがしの進行に使用、事前に充電しておくことが推奨)
予約枠が埋まっていたとしても、キャンセルにより1〜2名分の枠がときどき開放されている様子でした。興味のある方は、諦めずにこまめに予約サイトをチェックしてみて下さい。

6つの部屋をめぐる70分:体験型ラグジュアリーの設計
約70分・6部屋・30頭の「馬」を探す
イベントの核となるのは、約70分の制限時間で6つの部屋を巡り、合計30頭の馬を探すという体験型コンテンツです。全体の特徴としては以下3点になります。
- 70分間飽きさせない様々な仕掛け
- 馬を30頭すべて見つけようとするとかなり難易度は高め
- 一方で、キャストが適宜ヒントをくれるため、謎解きに不慣れでも楽しめる設計
部屋ごとに変わる世界観とエルメスのマスターピースたち
最初のウェルカムルームでは、キャストの方から物語とルールの説明があり、参加者の没入感を高めてくれます。
その後、以下のような部屋を順番に巡っていきます。
- ストックルームをテーマにした部屋
- 館長の部屋
- 食糧庫
- バスルーム
- ランドリールーム
- グルーム寮
以下の写真はウェルカムルームからランドリールームまでの各部屋のものになります。イベントの雰囲気が少しでも伝われば幸いです。






各部屋には、バッグやスカーフだけでなく、化粧品や時計など多様なプロダクトが自然なかたちで溶け込んでおり、製品も体験できる構成になっています。
馬モチーフが導くプロダクト体験
イベント全体を通じて、終始「馬」がモチーフとして登場します。
エルメスは馬具工房として創業したブランドであり、今回のイベントでも各部屋に馬をモチーフにしたオブジェやプロダクトが数多く配置されています。馬探しを進めていく中で、自然と製品にも触れる形になっており「世界観」と「商品」の繋がりが非常に巧みだと感じました。
最後の部屋とギフト:ロイヤリティを高める仕上げ
馬探しの正解数発表
最後の部屋では、参加者が最終的に何頭の馬を見つけられたかを答え合わせします。
答えを入手するためのパスワードにまでこだわりが感じられ、細部まで世界観が貫かれていました。
筆者は25頭発見することができましたが、残念ながら5頭は見逃してしまいました。

ブックレットという「持ち帰る体験」
体験の締めくくりとして、エルメスオリジナルのブックレットがギフトとして配られます。
デザインは複数パターンあり、手元に残るアイテムとしても楽しめるクオリティでした。
これは単なるノベルティではなく、イベントの記憶を思い出させるきっかけとして機能するものであり、ブランドロイヤリティの観点からも非常に重要なタッチポイントだと考えられます。
なお、このイベントのあとに携帯上で今度は馬ではなく館長を探す、という別のゲームも楽しむことができます。イベント参加後のブックレット&館長探しゲームでイベント後にさらに追体験という点も、斬新な手法と言えると思います。
エルメスが謎解きを選んだ3つの理由
最後に、なぜエルメスはヴァンクリーフ&アーペル展やブルガリ展のような展示中心の構成ではなく、謎解き×体験型のイベントを選んだのかについて、考察してみます。
① 将来顧客・若年層へのリーチ
ラグジュアリーブランドにとって、将来の顧客となる若年層・次世代の富裕層への認知獲得は重要な課題です。
ケリーやバーキンといったアイコンバッグを中心に据えた従来型の展示会は、既存の顧客層には強く訴求する一方で、20代〜30代前半のポテンシャル顧客層にとっては少し敷居が高く感じられます。
そこで、謎解きというエンターテインメント性の高いイベント形式を導入することで、
- カップル・友人同士・親子
- 仕事帰りのビジネスパーソン
- ブランドに興味はあるが店舗には入りにくい層
に対しても、心理的ハードルを下げて自然に参加してもらう狙いがあると考えられます。
② 既存顧客のロイヤリティ向上
今回のイベントは、単なる謎解きではなく、会場の至るところにエルメスの珠玉のプロダクトが配置されていました。
既存顧客にとっては、以下の体験が可能になり、ブランドに対する満足度やロイヤリティの向上に繋がると考えられます。
- 馴染みのあるアイテムを新しい文脈で再発見できる
- バッグやスカーフだけでなく、ホーム・インテリア・化粧品などブランドの幅広さを再認識できる
③ エルメスのストーリーと世界観の再確認
3つ目は、エルメスが「馬具」からスタートしたブランドであることの再認識です。
イベント全体を通して馬が主役として登場し、各部屋のオブジェや演出にも馬モチーフがちりばめられています。
この構成により、来場者は
- 「なぜエルメスにとって馬が重要なのか」
- 「馬具からファッション、ジュエリー、ホームまで事業がどのように広がってきたのか」
を、言葉による説明ではなく、体験を通じて自然と理解することになります。
そして馬をテーマにすることで、エルメスが展開しているファッション、バッグ、宝飾、化粧品と全てのカテゴリを横串で刺す形でカバーする事が出来ます。
まとめ:ラグジュアリーブランドのイベント開催目的 – エルメスのケース
Mystery at the Grooms’ ― エルメスの馬さがし は、
- 将来顧客への認知拡大
- 既存顧客ロイヤリティの強化
- エルメスのブランドストーリーと世界観の再認識
という3つの目的を、体験型コンテンツとして高いレベルで統合した事例と言えます。
