2025年最新版 – ラグジュアリーブランドのクリエイティブディレクター交代と影響予測
ラグジュアリー業界ではここ1年半ほどで非常に重要なクリエイティブディレクターの変更が立て続けに発表されました。直近10年を振り返っても、ここまで大型ブランドで立て続けに変更が発生したことはなく、非常に大きな変化と言えます。当ブログでは、このディレクターの交代のまとめと、最後に会計的な影響についても少し触れたいと思います。
主要ブランドの交代一覧(2024年1月〜2025年6月)
ブランド | 退任デザイナー (退任日) | 新任デザイナー (就任日) | インパクト早読み |
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Dior | Maria Grazia Chiuri 2025-05-29 | Jonathan Anderson 2025-06-02 | メンズ・ウィメンズ一元化でシナジー最大化。 |
Dior | Kim Jones 2025-01-31 | Jonathan Anderson | 同上。コラボの方向性が若干異なる方向へと予想 |
Chanel | Virginie Viard 2024-06-05 | Matthieu Blazy 2024-12-12 | Bottega譲りのクラフト×モダンで若年層取り込み。 |
Loewe | Jonathan Anderson 2025-03-17 | Jack McCollough & Lazaro Hernandez 2025-04-07 | Proenza流デザインでアジア顧客拡大へ。 |
Givenchy | Matthew M. Williams 2023-12-01 | Sarah Burton 2024-09-09 | クチュール仕込みのテーラリング強化で客単価上昇を狙うフェーズへ。 |
Valentino | Pierpaolo Piccioli 2024-03-22 | Alessandro Michele 2024-03-28 | “マキシマリズム”回帰。色彩&ジェンダーフリー訴求。 |
Balenciaga → Gucci | Demna 2025-03-13 | Pierpaolo Piccioli(Balenciaga) 2025-06-04発表 | Kering内での人材シャッフル効果により、両ブランドの競合回避と新客層拡大が注目。 |
ブランド別解説
上記変更の中で、特に影響の大きそうなものやラグジュアリー業界のクリエイティブ・ディレクターの変更として必ず押さえておきたいものについて、特に3つ取り上げて解説していきます。どの変更が最も影響が大きいかは、それぞれ個人の考え方もあると思いますが下記3社つのブランドの変更は重要である、という点は異論がないと思います。
Dior
個人的には、上記の中で一番インパクトの大きかったのがこのDiorの変更になります。キム・ジョーンズのみではなくマリア・グラツィア・キウリも変更になり、この2人の退任は非常に衝撃的なニュースでした。ここ7年ほどのDiorの急成長の立役者は間違いなくこの2人の影響によるものであり、さらにマリア・グラツィア・キウリは今やスタープロダクトとなったブック・トートを発表した事でも有名です。
キム・ジョーンズは非常にコラボが上手なイメージがあり、毎回コラボ内容にも注目が集まっていたように思います。sakaiやデサントの水沢ダウンとのコラボなどもあり、日本とも縁が深かったことでも印象的でした。
今回はメンズとウィメンズのクリエイティブ・ディレクターのダブル体制も終焉を迎えて、もとLoeweのジョナサン・アンダーソンがメンズとウィメンズの総合ディレクターになりその点にも驚きました。メンズとウィメンズの別体制はそれぞれのディレクターの良さや特色が出ており、非常に面白い取り組みだと思い見ていたので少し残念ではあります。Diorはブランドとして規模も非常に大きくなったなか、天才ジョナサン・アンダーソンとは言えメンズとウィメンズを両方担当となると相当に大変だとは思うので、果たしてどのようなショーを実施するのかが楽しみでもあります。
Chanel
ブランドの規模ではルイヴィトンと並ぶほどの規模であると言われているシャネルもデザイナーを変更しています。シャネルは残念ながら退任前のデザイナーよりその1代前のカール・ラガーフェルドが在籍期間も長く天才の名を欲しいままにしており、ラグジュアリーファッション業界で最も有名なデザイナーの1人であると言えます。
その後を継いだヴィルジニー・ヴィアールは前任の偉大なカール・ラガーフェルド亡き後を継いでどうなることかと見られていましたが、非常に大きなプレッシャーもあるなかで業績を落とす事なく、シャネルをここまで導いたその手腕は素晴らしいものでした。後任のマチューはボッテガを大躍進させた立役者でもあり、それをChanelに上手く持ち込めるかという点がキーになると思います。ボッテガの際は若年層の取り込みにも成功しており、Chanelでも若年層への訴求が進む可能性が高いと考えます。
Loewe
ロエベを2番目に持ってくるか、3番目にするかを迷っていたのですが結局3番目に持ってきました。ロエベの立役者は間違いなくジョナサン・アンダーソンの実力によるものであり、となりのトトロコラボなどスタジオジブリとの繋がりも深い事もあり、ここ5年で最も知名度を上げたラグジュアリーブランドと言えると思います。
ジョナサン・アンダーソンもこの時の実績を買われてDiorへ抜擢されたのだと思います。また、ジョナサン・アンダーソンの時代から顧客層が大幅に若返り、若者への訴求にも成功しているブランドというイメージがあります。新デザイナーになって最も変わる可能性があるのが、このLoeweではないかと思っています。
Accountingの観点から
本ブログは会計事務所のブログでもあるので、少しAccountingの観点からも影響を考えてみようと思います。まず、真っ先に思い浮かぶのは在庫の評価減になります。例えばラグジュアリーファッションの区分としてはいわゆるシーズンものと、比較的通年利用が出来るようなエッセンシャルと呼ばれるものに分かれます(ブランドにより多少呼び名は違います)。後者は定番の柄のブックトートや革小物などが該当します。
例えば前者のシーズンもの商品の場合は、2年前のモデルは50%在庫の評価減といった形で会計上へ費用として計上する事になります。デザイナー交代の際はこの在庫の評価減 or 廃棄損が増す可能性が高くなります。なぜなら、デザイナーが同じであれば数年前のモデルをアウトレットで販売といった施策もとれますが、デザイナー変更の場合は早めに売り切りを目指してアウトレットからも残在庫を引き上げてしまうケースもあります。
アウトレットでも売れないとなると、選択できるオプションも減ってくるのですが日本での廃棄処理や本社へのシップバック(返品)なども候補にあがって来ます。なお、本社へのシップバックが行われた場合は、通常その分のクレジットノートを本社より入手する形になります。
また、デザイナー変更にともなりブランドの世界観をリデザインするケースもあり、そうなると大型の店舗改装などが行われることも多くこの場合には固定資産の取得が増大することになり。ラグジュアリーブランドの場合、店舗改装などの費用が非常に高額なのですがそれに加えてさらに膨らむことになります。
まとめ:デザイナー交代は“物語再定義”の好機
クリエイティブディレクターの交代は、ビジュアル刷新だけでなくブランドストーリーの再定義という意味合いもあり必ずしも悪いことではありません。Diorのマリア・グラツィア・キウリのようにブランドの急躍進に繋がることもあるため、このあとのクリエィティブ・ディレクター交代の結果についても引き続き注視していきたいと思います。