借入金を資金源とした配当について
今回は、借入金を資金源とした配当というテーマで。通常配当を実施する場合はPLの利益やBSの利益剰余金をベースに議論がされるケースが多いですが、今回はCashの観点から考えてみます。つまり、借入金の残高がある場合に配当に回さず借入金の返済に回した方が良いのか?あるいは配当すべきか?という点です。
恐らく一番多い答えは「借金である借入金の返済を優先して配当の支払を減らす or 止める」になると思います。このように考える方が多いのは当然であり、借入金の返済を実施すれば支払利息が減るため、余計な費用やcash outを減らすことができます。
なお、今回のケースは100%子会社で親会社はヨーロッパ、またシンプルに考えるため過大支払利子税制などの国際課税については考慮せずとなりますので、その点はご了承下さい。
会計に携わっているかたや、FP&Aとして最適資本構成や利率などを計算する立場にいるかたであれば、また別の意見もあると思います。それは、日本では最近わずかながら利上げを実施したとはいえ、アメリカなどと比較すると引き続き極めて低い利率であるため、借入したまま運用した方が得なのでは?という発想が出てきます。この考えをもう少し推し進めると、国内では運用利回りも低いが海外は日本よりは利回りが高い国が多くある、という考えにたどり着きます。
結果、借入は返済せず親会社に配当として回して、親会社側にて運用し
差益 = (親会社の運用利回り) – (日本の借入利率)
を獲得するという戦略が考えられます。数値を使用して具体的に見てみましょう。
例. 配当金 10億円, フランスの平均運用利率 3.5%, 日本の借入利子率 0.8%, 借入金残高10億円
10億円 * (3.5% – 0.8%) = 0.27億円
となりグループ全体で見た場合、2,700万円が差益として儲かるという事になります。
なお、上記に関しては考慮すべき重要な点がいくつかあり、一つ目は為替の影響を考慮していないという点です。上記例は円で全て計算していますが、当然親会社の運用はユーロのため為替の影響を受け結果として、上記のようにプラスにならず借入金を返済した方が得だったというように、マイナスになる可能性があります。
もう一つ重要な点は、上記例の2,700万円の利益はグループ全体として見た場合という点です。つまり、日本単体で見た場合、借入金を全額返済すれば支払利息が減るため、上記例の10億円*0.8% = 0.08億円の費用削減効果が出ますが、配当に回すとこの費用削減効果がないため、日本単体の部分最適を目指す場合には不利に働くことになります。
このような、日本単体で考えると損となるが、グループ全体で見た場合は益となるといった事象は連結会社では良く見られます。例えば移転価格税制などは会計ではなく税制ではありますが、似たようなケースとなります。
上記のようにコンフリクトが生じた場合はどうしたら良いでしょうか?
この点は解は明確でありCFOの役割が非常に重要となります。つまり、本社のCFOたちとの交渉になります。KPIとして日本の純利益で評価が測定されている場合は、それのみではなくグループ全体の貢献度についてもKPIに含めてもらうこと、などが挙げられます。ただ、本社のCFOは当然、各子会社単位でも業績は見ているものの、最終的にはグループ全体の連結数値をKPIとして評価されるのが一般的です。そのため、上記のような交渉がローカルサイドからあった場合、本社としてもメリットがあるため通常は提案については受け入れられる可能性が高いと思われます。
ただ、この交渉もタイミングが重要であり、業績が悪い場合よりは業績の良い場合に提案した方が、親会社がYesという可能性が高いと思うので、戦略的な交渉が必要になります。