コラム

ロレアルが時価総額でLVMHを逆転|ラグジュアリー業界に起きた象徴的な出来事

2026年9月15日、フランス株式市場で象徴的な出来事が起きました。L’Oréal(ロレアル)の時価総額がLVMHを上回り、フランス最大の上場企業となったのです。Reutersによれば、この日の時価総額はL’Oréalが約2,030億ユーロ、LVMHが約2,010億ユーロ。L’Oréalが首位となるのは2017年以来です。
https://www.reuters.com/business/retail-consumer/loreal-steals-french-stock-market-crown-lvmh-2026-09-15/

時価総額は日々変動するため、1日の順位だけで企業の優劣を語るべきではありません。しかし今回の逆転は、ラグジュアリー業界の構造を考えるうえで非常に象徴的です。

第1章 「総合ラグジュアリー」がビューティー企業に抜かれた意味

LVMHはLouis Vuitton、Dior、Tiffany & Co.、Bulgariなどを抱え、ファッション、ジュエリー、ワイン・スピリッツまで展開する世界最大級のラグジュアリーコングロマリットです。

一方のL’Oréalは、化粧品・スキンケア・フレグランスを軸とするビューティーのコングロマリットです。その企業がLVMHの時価総額を上回ったことは、資本市場が現在、ラグジュアリー商品の「希少性」だけでなく、ビューティーが持つ継続的な成長力を高く評価していることを示唆しています。

第2章 なぜL’Oréalは強いのか

高級品でありながら購入頻度が高い

バッグや時計と比較すると、化粧品やフレグランスは単価が低く、景気が悪化しても消費者が購入しやすいカテゴリーです。いわゆる「リップスティック効果」が働きやすく、さらに消耗品であるためリピート購入も期待できます。

L’Oréalの2026年上期売上高は約238億ユーロ、調整後の既存事業ベースで6.5%成長し、営業利益率も21.3%となりました。L’Oréal Luxeも5.1%成長しており、高級ビューティーは依然として強い成長領域です。

第3章 対照的なLVMHの現在地

LVMHも決して事業競争力を失ったわけではありません。2026年上期の売上高は386億ユーロ、営業利益率は22.5%と依然として極めて高い収益力を維持しています。

一方、上期のオーガニック成長率は2%、継続事業営業利益は前年同期比4%減となりました。中国市場や地政学リスク、高価格化による消費者層の縮小などを背景に、資本市場はファッションを中心とする従来型ラグジュアリーの成長に以前ほど高い期待を置いていない可能性があります。

第4章 さらに大きいGucciという成長オプション

L’Oréalには、さらに重要なプラス要因があります。Gucci Beautyです。

KeringとL’OréalはGucciのフレグランス・ビューティーについて50年間の独占ライセンス契約を締結しており、現在Cotyが保有するライセンスは前倒しで終了し、L’Oréalの契約は2027年7月1日から発効する予定です。

L’OréalはすでにYves Saint Laurent Beautéなど、ファッションブランドを巨大なビューティービジネスへ転換してきた実績があります。Gucciという世界有数のブランドIPをL’Oréalの研究開発、商品開発、マーケティング、グローバル流通網に乗せることで、どこまで企業価値を拡大できるかは非常に興味深いポイントです。

まとめ

L’OréalによるLVMHの時価総額逆転は、単なる株価ランキングの変化ではありません。総合ラグジュアリーコングロマリットに対して、ビューティーを中心とする企業が同等以上の企業価値を獲得したという点で、現在の消費市場を象徴する出来事といえます。

そして2027年にはGucci Beautyという新たな成長エンジンが加わります。L’Oréalがこのブランド価値をどこまで引き出すのか。今後のラグジュアリー業界を見るうえで、非常に注目すべきテーマになりそうです。

公認会計士としての視点

時価総額は現在の利益だけではなく、将来キャッシュフローに対する市場の期待を反映します。その意味で今回の逆転は、L’Oréalの現在の収益力だけでなく、ビューティー市場の成長性、ブランドポートフォリオ、そしてGucciを含む将来の成長オプションに市場が価値を認めている結果とも考えられます。

ブランドビジネスにおいて重要なのは、ブランドを保有することそのものではありません。無形資産であるブランドを、どのカテゴリーで、どのパートナーと、どれだけ効率的にキャッシュフローへ転換できるか。L’Oréalの現在の評価は、まさに「ブランド価値を収益化する能力」そのものが企業価値になることを示しているように思います。