なぜAPは“MoonSwatch化”を避けたのか? Royal Popに見るラグジュアリー戦略と今後の可能性
Omega SwatchのMoonSwatchがみながイメージするような「正当なデザインコラボ」とすると、Audemars Piguet * SwatchのRoyal Popは、その名のとおり「ポップに振り切ったコラボ」と言えます。Swatch公式によれば、Royal PopはRoyal OakのデザインとSwatch POPの世界観を融合したポケットウォッチ型コレクションです。
下記の写真は、スウォッチ銀座店でのディスプレイされていたものになります。

第1章 MoonSwatchとRoyal Popは何が違うのか
MoonSwatchは、同じSwatch Group内にあるOmegaとSwatchの協業でした。利益、ブランド管理、リスクはグループ内でコントロールもし易いと言えます。一方、AP SwatchのRoyal Popは資本関係のない外部コラボです。この違いは極めて大きいといえます。
MoonSwatchはオメガのスタープロダクトであるスピードマスターの認知を、若年層へ拡張する商業性の強い企画でした。これに対しRoyal Popは、Audemars PiguetのスタープロダクトであるRoyal Oakの廉価版ではなく、あえてポケットウォッチという距離を置いた形式しかも非常にカラフルなカジュアル路線を採用しています。
第2章 APがRoyal Oakのデザインをカジュアルに寄せた理由
Audemars Piguetの価値は、単に高品質な時計の製造だけではなく、「希少性」自体を価値としている戦略にあります。この辺りは、ロレックスのデイトナやパテック・フィリップのノーチラスなども同様です。Royal Oakの本格的な廉価版を出せば、短期的な売上は得られても、長期的なブランドイメージを毀損する可能性があります。そして、一度ブランドイメージを毀損してしまうと、その回復は非常に時間がかかります。
そのためRoyal Popは、Royal Oakの象徴である八角形ベゼルを想起させつつも、本家Royal Oakとは明確に異なるプロダクトとして設計されています。これはラグジュアリー戦略上、極めて慎重なブランド防衛策と言えます。
第3章 ラグジュアリー業界における意味
ラグジュアリーは単に高価格であることではなく、希少性、ストーリー性、顧客コミュニティによって成立します。Royal Popは、Swatchの大衆性を取り込みながらも、Audemars Piguetのブランド神話は守るという形を採用しています。
これは、ラグジュアリー業界におけるコラボ戦略の進化形です。ブランドの間口を広げながら、中心資産であるRoyal Oak本体の価格決定力は守る。まさに「Win-Win」戦略です。
第4章 アカウンティングの視点
会計・財務の観点では、Royal Popは無形資産の収益化と捉えることができます。Audemars Piguetが主に提供しているのは職人の技術力ではなく、ブランド価値やデザインです。
契約形態は公表情報だけでは断定できませんが、一般的にはMinimum Guarantee、Revenue Share、ブランド/IP使用料、ロイヤルティなどの組み合わせが推察されます。これは設備投資を伴わず、ブランドエクイティを収益化するIP利用の一形態といえます。
また、Audemars Piguet側ではRoyal Popからの
利益の100%を時計技術継承・若手職人育成に使う
と表明している点も特徴的です。この表明により、利益追求目的のコラボではなく職人保護のための施策であるというサステナビリティ活動の一環としても打ち出すことができ、非常に上手い戦略と言えます。
第5章 Patek Philippeコラボの可能性
ここまで来ると、時計3大ブランドのトップと言われているPatek Philippe * Swatchはあり得るのか、という点が気になると思います。ただ、残念ながら今のPatek Philippeを見る限り、個人的には可能性は高くないと考えます。
Patek Philippeは「世代を超えて受け継ぐ時計」という思想が強く、Audemars Piguet以上に保守的なブランド管理を行っています。Audemars PiguetですらRoyal Popをポケットウォッチ型にしたことを踏まえると、Patek Philippeが同様の形式に踏み切るハードルは相当高いと考えます。
まとめ
Royal Popは、MoonSwatchの単なる二番煎じではありません。むしろ、ラグジュアリーがどこまで一般化できるのか、その限界を示す戦略的実験とも言えます。
今回は、銀座では前日の夜から行列が発生しており発売日当日は、銀座7丁目から1丁目に達するほどの超長蛇の列となっていました。また、日本のみでなく世界各国で同様の状況だったようです。これらの点を鑑みると、期待度や注目度は極めて高く宣伝効果としては莫大だったと言えます。
