コラム

監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」改正へ|経理部が押さえるべきポイント

2026年8月、日本公認会計士協会は監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」の改正に関する公開草案を公表しました。

今回の改正は、単に監査法人の監査手続が変わるという話ではありません。不正リスクに対する監査人の確認がより明確化されることで、企業の経理部や内部統制部門にも影響する可能性があります。今回は、会計監査を受ける企業側の視点から主なポイントを整理します。

第1章 なぜ監査基準報告書240が改正されるのか

企業不祥事と「監査は不正を見つけないのか」という問題

今回の改正の背景には、世界各国で相次いだ企業不祥事があります。不正が発覚するたびに、「監査を受けていたのになぜ発見できなかったのか」という疑問が生じます。

そこで国際監査基準ISA240が改訂され、日本でもこれに対応して監査基準報告書240の見直しが進められています。監査人の責任そのものを無制限に広げるというより、不正という視点を監査のリスク評価から対応まで、より明確に組み込むことが今回のポイントです。

第2章 経理部に影響する「不正又は不正の疑い」への対応

改正案では、監査人が「不正又は不正の疑い」を識別した場合の手続が明確化されています。ここには監査人自身が発見した事項だけでなく、企業内外からの不正の申立ても含まれます。

特に重要なのは、監査人が会社による調査プロセスや是正措置が適切かどうかを評価する点です。つまり企業側としては、不正の疑いを把握した後に「誰が調査し、どのように事実認定し、どのような改善策を実施したか」を説明できる体制がより重要になります。

第3章 内部通報制度も会計監査の重要テーマへ

今回の改正では、不正リスクを理解する過程で、企業に内部通報制度等がある場合、その制度や不正申立てに対する経営者の対応を監査人が理解することが明示されています。

経理部だけで完結する問題ではなく、内部監査、法務、コンプライアンス、監査役等との情報連携が重要になります。「通報があったが財務数値には影響しないので監査法人には関係ない」という判断は、今後より慎重に行う必要があるでしょう。

第4章 収益認識と経営者による内部統制の無効化

会計監査では従来から、収益認識と経営者による内部統制の無効化は重要な不正リスクとされています。改正案でもこの考え方は維持され、特に収益認識について不正リスクがないと反証することは通常適切ではないとされています。

売上計上時期、期末の大型取引、手入力仕訳、見積り項目などについて、監査法人から従来以上に背景や根拠を確認される可能性があります。

経理部にとって重要なのは、監査対応資料を増やすことではありません。むしろ、不正の兆候をどのように把握し、社内で共有し、調査し、会計処理への影響を検討したかという一連のプロセスを整備しておくことです。

内部通報、内部監査、会計処理、監査役への報告が別々に管理されている企業では、情報連携の仕組みを改めて確認する価値があります。

まとめ

監査基準報告書240の改正は、監査人に対して不正への対応をより明確に求めるものです。しかし、その影響は監査法人だけにとどまりません。

監査人が不正リスクをより深く確認するようになれば、企業側にも不正を把握・調査・是正するガバナンス体制について、これまで以上に説明力が求められることになります。

公認会計士としての視点

会計不正というと粉飾決算をイメージしがちですが、実務では最初から大規模な粉飾として現れるとは限りません。売上計上の判断、経営者による例外承認、内部通報への対応など、小さな兆候が重要になるケースもあります。

その意味で今回の改正は、監査手続の変更というより、企業の財務報告プロセスとガバナンスを改めて点検する契機として捉えることが重要ではないでしょうか。