ラグジュアリーブランド日本法人の会計実務 ― 修理・アフターサービス売上の収益認識基準
今回は会計論点のうち、修理・アフターサービス売上の会計処理について少し記載してみようと思います。売上高に占める割合は小さいにもかかわらず、監査においても必ず論点としてはあがってくるものになります。今回は、ラグジュアリーブランドの日本法人がアフターサービスをめぐって直面する会計・税務の論点を整理します。
第1章 なぜアフターサービスが会計論点になるのか
売上構成比は小さく、判断すべき論点は多い
商品の販売は、店頭で商品を引き渡した時点で収益を認識すればよく、判断の余地はそれほど多くありません。これに対してアフターサービスは、顧客から品物を預かる、修理の完了までに数週間から数か月かかる、見積りと実際の費用が一致しない、修理の一部または全部を海外本社の工房で行う、といった要素を含みます。取引一件あたりの金額は小さくても、会計上の判断はむしろ商品販売より多くなります。
ブランド体験の中核であることが、処理を複雑にする
近年、多くのブランドが修理やオーバーホール、保証期間の延長、真贋鑑定、プレオウンド(中古品)の取扱いといった販売後のサービスを強化しています。顧客との関係を長期化させ、ブランドへの信頼を維持するための施策ですが、会計から見ると「販売した時点では終わらない約束」を増やす施策でもあります。この販売時点で完結しない顧客との約束をどう扱うかが、収益認識の中心論点になります。
第2章 保証は「引当金」なのか「売上」なのか
二種類の保証
収益認識に関する会計基準では、保証を大きく二つに分けて考えます。ひとつは、製品が合意された仕様どおりであることを保証するもの。もうひとつは、それに加えて独立したサービスを提供するものです。
前者であれば、将来発生する修理費用を見積って製品保証引当金として処理します。後者に該当する場合は、独立した履行義務として、販売時の対価の一部を保証サービスに配分し、保証期間にわたって収益を認識することになります。同じ「保証」という言葉を使っていても、損益計算書に現れる姿はまったく違います。たとえば、ソフトウェアの会社で製品販売とそれに伴う保守サービス、といった契約の場合には保守サービスの部分は契約期間に渡って、収益認識として計上する、といった具合になります。
期間を定めない「永年保証」をどう見積るのか
判定にあたっては、その保証が法令で要求されているものか、企業が約束している作業の内容は何か、といった点を考慮します。ここで難しいのが、スーツケースのリモワが導入している生涯保証のように、期間を区切らない保証を掲げるブランドの扱いです。
仮に製品が仕様どおりであることの保証と整理して引当金で処理する場合、見積りの前提となる期間が定まりません。販売後、何年目にどれだけの修理が発生するのか、一件あたりの費用はいくらか、という実績データがなければ引当金は積みようがないという事になります。しかしながら、「実績がないので引当金は計上していない」という状態が続いていると、監査で必ず説明を求められる部分です。
もうひとつ論点になるのが、保証の対象範囲です。生涯保証といっても、通常は機能に関する不具合が対象で、通常使用による外観の傷や、輸送中の破損は対象外とされるのが一般的です。どこまでが無償で、どこからが有償修理なのかという線引きが、そのまま引当金の見積範囲になります。たとえば、リモワの場合では、通常の使用による傷等は対象外である点は明確にしており、車輪の破損といった機能的な損耗のみを対象にしています。
また、保証の履行が数十年先に及ぶ可能性がある以上、見積額をそのまま計上してよいのか、時の経過を考慮した割引を行うべきなのかという論点も生じます。私自身が、永年修理保証のケースを実務で直接携わっていないので、あくまで想像にはなりますが、金額的に重要性があるのであれば、当然に割引計算をしているものと思われます。
第3章 総額で計上するのか、純額で計上するのか
「本人」なのか「代理人」なのか
時計や宝飾品では、修理が日本国内で完結せず、海外の本社工房に送るケースが多くあります。この場合、日本法人が顧客に対して自ら修理サービスを提供しているのか、それとも本社のために取り次いでいるだけなのかによって、売上高の計上方法が変わります。
自ら提供している(本人)と判断されれば、顧客から受け取る修理代金の総額を売上に計上し、本社への支払を原価とします。取り次いでいるだけ(代理人)と判断されれば、手数料相当の純額のみが売上になります。売上総利益はどちらでも大きくは変わらないのに、売上高は数倍変わることがあります。本社に報告する売上高の議論をしている場面で、この論点が後から出てくると厄介です。
判断の材料は、契約書と実態の両方
判断のポイントは、修理サービスを提供する責任を最終的に誰が負っているか、価格を誰が決めているか、修理に使う部品の在庫リスクを誰が負っているか、といった点です。
私見にはなりますが、本論点については本人とみなして総額表示が一般的と思われます。なぜなら、修理自体は日本でも行っており部品在庫なども日本で保有しているケースが大部分であり、部品が陳腐化すれば日本側で廃棄等も行います。
また、修理価格についても、本社の実際に修理した際の請求書等をもとに、顧客への請求額を決めているが、この金額も一律に本社の請求書の10%増と決めているわけではなく、競合他社の動向など、諸要因を加味して決めているため、価格決定権も日本側にあると考えられるためです。
第4章 期末に残るもの ― 預り品と前受金
顧客から預かった品物は、自社の在庫ではない
期末時点では、修理のために顧客から預かっている品物が、店舗やサービスセンターに残ります。これは自社の資産ではないため棚卸資産には含めません。当然のことのようですが、預り品と自社在庫、修理用の部品在庫が同じバックヤードで管理されていると、実地棚卸の際に混在が起こります。ラグジュアリー商材は一点あたりの単価が高いため、数点の混在でも金額的な影響が出ますし、保険や保管責任の観点からも管理の分離が必要です。
私が監査法人で棚卸・立ち会いを実施していた際も、この預かり品と自社製品の差については注意してみていたので、重要な論点といえます。この預かり品と自社製品の区別が曖昧な会社は、総じてそれ以外の棚卸しのカットオフエラーなどでも引っかかるケースが多く、企業の管理体制のレベル判断にも役に立ちました。
前受金と、引き取りに来ない修理品
修理の受付時に代金の一部または全部を前受けする場合、その時点では収益ではなく契約負債です。収益は原則として、修理が完了し顧客に引き渡した時点で認識します。オーバーホールのように工期が長いものは、期末に受付済み・未完了の案件がまとまった金額で残ります。
見落とされやすいのが、修理が完了しているにもかかわらず顧客が長期間引き取りに来ないケースです。前受金と預り品が、何年も残高に残り続けていることがあります。約款上の取扱いを確認したうえで、どの時点で負債を取り崩すのか、社内のルールを決めておく必要があります。
第5章 消費税と国際取引の論点
海外から持ち込まれた品を国内で修理したとき
インバウンド需要の回復により、海外の顧客が持ち込んだ品を日本国内で修理する場面が増えています。役務の提供が国内で行われる限り、相手が非居住者であっても原則として消費税の課税対象です。修理後に海外へ返送する場合には輸出免税の適用余地がありますが、輸出した事実を証明する書類の保存が要件となります。実務上は、会計処理の判断そのものより、店頭のオペレーションでこの証憑が残っていないことが問題になります。
なお、私自身の経験によると、海外での購入品を国内修理というのは認めているブランドの方が多いイメージです。また、類似論点としては、海外購入品の国内での返品は認めるか?という論点もありました。
この辺りをOKにすると、もちろん顧客サービスの観点からは望ましいですが同時に店舗側では、返品や修理の際にどこで購入したものなのかを確認するという追加の確認事項が必要になり、手間は間違いなく増大する、という点も考慮に入れる必要があります。
本社への支払は、何の対価なのか
海外本社の工房に修理を委託した場合の支払は、役務提供の対価なのか、技術やノウハウの使用料なのか。この区分によって源泉徴収の要否が変わります。ロイヤリティに係る源泉税は外資系ブランドの典型論点であり、本ブログでもブルックスブラザーズ日本法人の課税漏れの件で取り上げました。契約書の文言と実際の取引実態がずれていると、後から否認されるリスクがあります。
ただ、日本法人で修理ができないものを、海外工房での修理に回した場合の会計処理は役務提供の対価とみなして、通常のInterco取引として整理するのが一般的と考えられます。
まとめ
アフターサービスの会計処理は、売上高に占める割合の小ささに比べて、判断すべき論点が多い領域です。保証の区分、総額か純額か、預り品と前受金の管理、消費税と源泉税。いずれも決算の直前に考え始めて間に合う性質のものではありません。
そして、これらの判断は「本社の方針だから」で片づけられないものばかりです。日本独自の保証やサービス、日本での契約実態は、日本法人が自ら説明する必要があります。
公認会計士としての視点
ラグジュアリーブランドの決算を分析していると、アフターサービスは「ブランドの世界観を支える機能」として語られます。また、顧客をブランドに繋ぎ止めるための重要なサービスの一つでもあるため、単純に売上に締める割合が低いからと行って、軽視することはできません。そのため、本記事に掲載したような各種の会計論点や税務論点についても、経理担当者は手当していく必要があります。
