中間配当が違法配当に?|欠損から回復した外資系日本法人が「初めての配当」で間違えやすいポイント
配当は、多くの会社にとって毎年の定時株主総会で決議する恒例行事です。一度プロセスができあがってしまえば、経理部にとって難しい論点はそれほど多くありません。
一方で、2024年末には上場企業が、実施済みの中間配当が会社法上の分配可能額を超えていたと公表しました。上場企業で、監査法人の監査を受けていても起こりうるということです。今回はこの事例を簡単に紹介したうえで、外資系の日本法人で特に間違えやすいケースを取り上げます。
第1章 上場企業でも起きた、分配可能額を超えた中間配当
事例の概要
株式会社日本M&AセンターホールディングスというM&A専門会社が、分配可能額を超えた配当を実施したということでニュースになりました。発見したのは、監査法人トーマツであり、これを受けて第三者委員会の設置が決定しています。
なぜ、このような中間配当が起きたのか、という詳細については、第三者委員会の報告で明らかになると思います。
日本M&Aセンターホールディングス[2127]:分配可能額を超えた過年度の中間配当金に関する第三者委員会設置のお知らせ 2026年10月8日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞
違法配当の責任は誰が負うのか
分配可能額を超えて配当した場合、会社法上、配当を受け取った株主と、配当に関する職務を行った取締役等は、連帯して会社に対し支払う義務を負います。上場企業の事例では、株主には返還を求めない方針が示されていますが、これは株主が多数いる上場企業ならではの判断です。
親会社が100%株主である外資系の日本法人では、配当を受け取ったのは親会社そのものです。返還を親会社に求めるのか、日本法人の取締役が責任を負うのかという問題が、そのまま本社と日本法人の役員の間の問題になります。
第2章 毎年配当している会社では、なぜ間違いが起きにくいのか
毎年配当を実施している会社では、配当額の計算は決算業務の一部として組み込まれています。前年の計算表を更新し、監査法人も毎年同じ手順で確認するため、計算を誤る余地はそれほど大きくありません。
難しいのは、過去に欠損が生じていた会社が、利益剰余金がプラスに転じて初めて配当を行うケースです。外資系の日本法人では、立ち上げ期の赤字を経て黒字化し、本社から「そろそろ配当を」と求められる流れは典型的です。社内に配当の手順がなく、担当者にも経験がない状態で、本社の期待する金額とスケジュールが先に決まってしまう。間違いが起きやすいのは、まさにこの場面です。
第3章 間違えやすいケース① US基準・IFRSの数字で計算してしまう
分配可能額は日本基準の単体計算書類で計算する
外資系の日本法人では、日々の記帳を本社報告用のUS基準やIFRSで行い、期末に日本基準へ組み替えて計算書類を作成しているケースが多くあります。このとき、配当額の計算を手元にあるUS基準やIFRSの数字で行ってしまうのが、1つ目の典型的な誤りです。
会社法上の分配可能額は、日本の会計基準に基づいて作成した単体の計算書類をもとに計算します。本社報告用の数字の利益剰余金がいくらであっても、それは分配可能額の計算には使えません。
基準の差は、利益剰余金に溜まっている
グループ基準と日本基準の差は、単年度の利益だけでなく、設立以来の累積として利益剰余金に溜まっています。減損損失の戻入れの可否、リースの会計処理、収益や引当金の計上時期、税効果など、一つひとつは小さな差でも、累積すれば分配可能額を大きく変えることがあります。
特に注意が必要なのは期中の配当です。日本基準への組替を期末にしか行っていない会社では、中間配当を検討する時点で手元にあるのはグループ基準の数字だけです。前期末の日本基準の計算書類から、改めて分配可能額を計算する手順を踏む必要があります。ただ、実務上、非常に手間がかかるため、私もまだ外資系の日本子会社で中間配当を実施しているケースは、見たことがありません。
第4章 間違えやすいケース② PLの利益をそのまま配当しようとする
見るべきはBSの利益剰余金
2つ目の誤りは、BSの利益剰余金ではなく、PLの当期純利益を見て配当額を決めてしまうケースです。本社は配当方針を「当期純利益の何%」といった形で決めていることが多く、日本法人に対しても「今期の利益を配当で」という依頼が来ます。
毎年利益が出ている会社であれば、これでも大きな問題にはなりません。しかし過去に欠損がある会社では話が変わります。たとえば前期末の繰越利益剰余金がマイナス5億円の会社が、当期に3億円の純利益を計上したとします。期末の繰越利益剰余金はマイナス2億円のままで、資本剰余金などの他の原資がなければ、分配可能額はゼロです。この状態で当期の利益3億円を全額配当すれば、その全額が分配可能額を超えた配当になります。
利益に転じたことと、配当ができる状態になったことは別の問題です。過去の欠損を埋めきるまでは、利益が出ていても配当はできません。
欠損から回復した直後に確認したいこと
欠損から回復したばかりの会社では、あわせて確認しておきたい点がいくつかあります。まず、純資産額が300万円を下回る場合には、分配可能額の計算にかかわらず配当はできません。また、利益剰余金がマイナスでも資本剰余金がある場合には、資本剰余金を原資とする配当という選択肢があります。この点は以前の記事「配当 – 資本準備金・資本剰余金を配当原資とする場合」で取り上げました。
第5章 あわせて確認したい、租税条約の届出書
届出書は「支払の前」に提出する
初めての配当で、配当額の計算と並んで抜けやすいのが租税条約の届出書です。非居住者である親会社に配当を支払う場合、国内法では20.42%の源泉徴収が必要になります。親会社の所在地国が日本と租税条約を締結していれば、「租税条約に関する届出書」を提出することで、源泉税の軽減や免除を受けることができます。
この届出書は、配当の支払日の前日までに、支払者である日本法人を経由して税務署に提出する必要があります。親会社が租税条約の締結国にある場合には、必ず提出しておきたい書類です。特典条項のある条約では付表や居住者証明書の添付も必要になるため、準備には時間がかかります。配当の決議日だけでなく、届出書の準備から逆算してスケジュールを組むことが重要です。
出し忘れた場合にどうなるか
届出書を提出しないまま配当を支払った場合、いったん20.42%で源泉徴収したうえで、後から還付請求を行うことになります。還付を受けられる可能性はありますが、手続には時間がかかり、その間は本社側の資金が日本に留まることになります。配当は通常の支払いと比べて金額が大きいため、影響も大きくなります。
配当にかかる源泉税や日本銀行への報告などの実務については、「外資系の税務論点 – その4 配当」や「外資系の税務論点 – その2源泉税」でも取り上げていますので、あわせてご参照ください。
まとめ
毎年配当を行っている会社では、配当額の計算は通常業務に組み込まれており、誤りが起きる余地はそれほど大きくありません。注意が必要なのは、過去に欠損があった会社が利益剰余金のプラス転換を機に初めて配当するケースです。
そこで間違えやすいのは、本社報告用のUS基準やIFRSの数字で計算してしまうこと、そしてPLの当期純利益を見て配当額を決めてしまうことです。分配可能額は、日本基準の単体計算書類のBSをもとに計算します。あわせて、親会社が租税条約の締結国にある場合には、支払の前に届出書を提出しておくことが欠かせません。
公認会計士としての視点
今回取り上げた誤りには共通点があります。それは、配当を判断するときに「どの数字を見ているか」です。連結なのか単体なのか、グループ基準なのか日本基準なのか、PLなのかBSなのか。どれも、見ている数字が違うだけで、計算そのものは難しくありません。
本社は当然、自分たちの基準で作られた当期純利益をもとに配当を考えます。その数字と、日本の会社法上で配当できる金額は一致しないことがあります。その差を本社に説明し、適法な配当額とスケジュールを提案することは、外資系日本法人の経理にとって重要な役割のひとつではないでしょうか。
